サボテン(B面)

少し、疲れてしまったわ。
……或いは、少しずつ疲れていっていたのかも知れないけれども。


彼女はそう言って薄く笑みを浮かべた。
心がこもって居ない営業スマイルとも違う、表情筋の微かな歪み。


そんな顔をする時はね、構わなくて良いのだと
言われては居るけれど。


彼女の表情が痛々しすぎるから
僕はついおしゃべりになる。




普段よりも口数の多い僕を彼女がどう感じて居るかは、歪んだ表情筋から読み取ることはできない。


何故なら彼女は笑っていないから。
また、あの人のことを想って微かな溜息を吐き
過ぎてしまった夢の中に居るような表情をする。




恋人と云う立場にね、憧れた時もあったのだけれど。
恋人になったからと云ってあの人がね、
私を想ってくれるかと言ったら……それは無いかしら、と思って。


多分、私が疲れだしたのだとしたら
あの瞬間が始まりだったのかも知れないわね。




それでも、貴女はあの人と逢うのを止めないんでしょう?
掠れた声で尋ねる僕に
彼女はようやく視線を向けてくれる。






ええ、勿論。


だって、私


あの人が堕ちてくれるまでは
ドォルの振りをし続けるって決めたのですもの。